今津加菜さんを訪ねる。 ~個展開催にあたって~
4/9(土)〜4/17(日)に開催するオンライン個展にあたって、今津加菜さんの工房を訪問させていただきました。
うつわのことや制作のこと、これまでの経歴など、いろいろ聞かせてもらうことができました。
スリップウェアを制作するようになったきっかけ
今津さんが作陶されているのは福岡県糸島市。
元々は鳥取県の中井窯で修行されていたとのこと。
中井窯といえば「掛け分け」のうつわがとても人気の窯元です。
そんな修行時代から独立後、スリップウェアを手掛けるようになったのには「点と点が線で繋がる」ような経験があったのだそう。
(スリップウェアについて詳しくはこちらの記事をご参照ください▶︎『知ればもっと好きになる、スリップウェアの独自性。』)
「元々、民藝のうつわの作家さんが多く在籍されている鳥取県の中井窯で勉強させていただいてました。
あるとき、仕事の関係で鳥取民藝美術館の展示替えをする機会があって、その際に、石原幸二さんのスリップウェアを初めて見て、『ぽってりとしてかわいいな』という印象を受けました。でもそのときには勉強不足でスリップウェアといううつわのことは知りませんでした。
その後独立して自分の作品を作るようになったとき、中井窯で培った『(釉薬を)流す』という工程・化粧土を扱うこと・かつて見た石原幸二さんのスリップウェア、それぞれが繋がり自分もスリップウェアを勉強して作ってみたいと思うようになりました。」
☝︎ 流し掛けることによって生まれる不思議な線の装飾も、衝撃的に刺さるものがあったのだとか。
自身から見るうつわの個性
スリップウェアと一口に言っても、作り手によって雰囲気や表情は大きく異なります。
今津さん自身から考える、「今津加菜のスリップウェア」についてお聞きしました。
「形に関しては、轆轤では作ることができなかった色んな形を作っていきたいと思っています。四角、丸、長皿。
それから、ヨーロッパの技法であるということで、ポワソン皿(魚料理の皿)とラヴィエ皿。ラヴィエ皿は、前菜とかを乗せるためのうつわとして作られていました。そういった、ヨーロッパの雰囲気や形も取り入れながらやっています。
あとは、線。
線はむちっとした雰囲気を意識しています。ころんとしたボウルに、むちっとした雰囲気の線が私には心地いいというか(笑) そういった可愛らしい装飾をしていけたらなと。」
“むちっ”という独自の表現。今津さんならではの感覚がきっとあるのだと思います。
そう思いながら見ていると、確かにむちっとしているような気が、、。
独特な世界観を生む「色」について
私が最初に惹かれたのが今津さんの「色」の表現。
ご自身で「黒」と定義されている色は、少し緑の要素も含んだ優しい色味をしています。
店主「色に関して、以前お話を伺ったときにも『自分の中では黒として表現している』と話されていましたね。」
今津さん「そうですね。あのボウルなんかは比較的黒が強くなっていると思います。
(2人でボウルの所まで移動して、、)
あれ、緑ですね、、(笑) 割と黒くなっていると思っていたんだけど。光に当たると緑ですね(笑)
キツくない優しい黒になっていると思います。」
黒のような緑のような曖昧な色味。
だからこそ色に深さがあり、見る人を魅了する何かがあるのかもしれません。
私は勝手に「深い森を想起させるような黒」という風に感じています。
文様は「日常」の中にあるものから
スリップウェアの見どころの一つが「文様」。
今津さんは、定番の「鎬文様」や「フェザーコーム」に加えて、リズミカルな波線や魚の骨など独自の文様も施されています。
その中で一貫して感じられるのが、どこか“柔らかな”雰囲気。
「成形した後のうつわの形を見て、装飾を考えます。日常、暮らしの中にある“動く”ものをイメージすることが多いですね。
雲のモクモクした感じだったり、湯気のゆらゆらとした感じだったり。
あとは線の丸みだと、水が溢れる一歩手前のぷっくりとした感じだったりと、そういうイメージを頭に置きながら手を動かすと、線の流れに逆らわずに装飾できているような気がするんです。」
おわりに 〜モノ作りをやめられずに、ここまで来た〜
高校からモノを作る学校に通っていたという今津さん。
生業として陶芸家を志したきっかけを聞くと、“モノを作ることをやめたくない自分”がいたのだそう。
話を聞いていても、モノを作ること、うつわを作ることを心から好きでいらっしゃるんだなというのを強く感じました。
今回の個展では、形・装飾ともに幅広い種類を作っていただきました。
ぜひ皆さんにとってお気に入りの1枚が見つかることを願っております。
質問してみたいことなどあれば、お気軽にお問い合わせくださいませ。