白の奥深い世界。人気の「粉引」を深掘りする

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こんにちは。
今回は「粉引の器」について深掘りしていきます。

良く知っているよという方も、聞いたことくらいはあるよーという方も、
どうぞお付き合いくださいませ。

粉引ってどんなうつわ?

家の食器棚を見てみましょう。
白だけれど真っ白じゃない。少し土っぽさが混じったような柔らかい白。
そんな色をした器があれば、そう、それが「粉引の器」です。
(もしかすると白い釉薬がかかっているだけの器かもしれませんが、、、)

粉引は、器のなかでもとても人気が高い種類です。
人気が高い=作り手も多く、作家によって多種多様な表情の粉引が作られています。

人気の秘密は、「柔らかい白の表情」と「経年使用による変化の風合い」。

磁器のような均質な白ではなく、柔らかな表情をしているため、食卓へ自然に馴染んでくれます。また、料理のジャンルを選ばない大らかさを持ち合わせています。

粉引

粉引はその構造上、他の器よりも水分が染みやすく経年による変化が出やすくなっています。使用するうちに変わっていく様子は、古くから「雨漏(あまもり)」と呼ばれ親しまれてきました。

よく「器を育てる」という表現を聞きますが、それはこうした「汚れ」を愛着をもって愛でる、日本独自の感性によるものが所以となっているのですね。

秘密は「化粧土」にある。粉引を粉引たらしめるもの

他の器には見られない柔らかな表情を持つ粉引。
厳密にどういった器のことを「粉引」と呼ぶのでしょうか?

粉引とは一般的に、素地の上に化粧土と釉薬をかけたものを指します。
他の器と違うところは、「化粧土」をかける工程。

多くの器は素地の上に直接釉薬をかける2層構造。
一方で粉引は、素地→化粧土→釉薬の3層構造となっています。

つまり、この「化粧土」の存在が粉引を粉引たらしめている立役者のような存在というわけですね。

粉引の見どころ

素地→化粧土→釉薬の3層構造の粉引ですが、
それぞれの組み合わせや焼き方、作家の創意工夫によって、様々な表情が生まれます。
ここでは代表的な見どころを紹介します。

[指痕]
化粧土をかける際、指で持った部分に化粧土がかからず痕がそのまま残り、土と白化粧の対比が見られる装飾です。
機械生産ではなく、作家の手によって丁寧に作られているからこそ生まれる装飾です。
マグカップ 裂粉引 指痕

[御本]
淡いピンクの斑点が出ることを「御本が出ている」と言います。還元焼成という焼き方によって現れる窯変の一つで、窯の詰め具合や、土や釉薬の原料、還元のかかり方(窯内の酸素濃度)によって変化があり、均一に出ることはありません。
御本の様子

[鉄粉]
土や釉薬に含まれる鉄分が、窯の中で焼かれることによって溶解し、器の表面に吹き出す褐色の点のこと。量産品の器などでは土を徹底して精製し、脱鉄しているためほとんど鉄粉が出ることはありません。
作り手によっては素材の風合いとしてあえて鉄粉を出す工夫をしています。
鉄粉の様子

[貫入]
冷却時に、素地に使う土や化粧土と釉薬との収縮率の違いにより、釉薬のガラス層にヒビが入ること。使い込むと貫入が色づいて経年変化が楽しめます。
貫入について詳しくはこちらの記事もどうぞ↓
ただのヒビ割れとは違う?「貫入」ってなんだ。

上の写真は全て大原拓也さんの粉引を例にしています。
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最後に小話。「粉引」の由来

白い器のことをなぜ粉引と呼ぶのだろう?
私自身、前から気になっていたので調べてみました。

「粉引」という名が文献にはじめて登場したのは元禄5(1692)年。
それ以前にも粉引の茶碗は登場していたそう。

日本では昔から、表面に白い粉状のものが現れた状態を「粉を吹いた」または「粉を引いた」と言っていました。干し柿などの表面に滲み出た糖分などが結晶して粉のようになった状態や食べ物にカビが生じた状態のことを言うのですが、化粧土を施された白い茶碗を見た当時の茶人がその様子から「粉引」と名付けそうです。

300年も前に付けられた名が、令和の現代にまで定着し続けているとはすごいですね。

おわりに

今回は粉引の器についてまとめました。
当店取り扱い作家の中にも、個性のある粉引を作られている方がいらっしゃいますので是非チェックしてみてください。
きっと長く愛着を持って使い続けられることと思います。