ただのヒビ割れとは違う?「貫入」ってなんだ。

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皆さん、器に入ったヒビ割れ模様を見たことがありませんか?
実はこれ、ただのヒビ割れではなく「貫入」という現象。
読み方は「かんにゅう」です。

古くから器の見どころの一つとして楽しまれてきた貫入。
その仕組みや付き合い方を知れば、うつわ選びがより楽しくなりますよ。

貫入はなぜできる?

貫入とは、釉薬の表面にできたヒビ割れ模様のこと。
素地と釉薬の膨張・収縮率が異なることで生じます。

というのが簡単な説明ですが、難しい言葉ばかりで何のことか分かりませんよね。
少し詳しく説明してみます。

物質には熱を加えると膨張し、冷やすと収縮するという性質があります。これを「熱膨張」と呼びます。

そして、陶磁器はそもそも土を成形すれば出来上がりというものではなく、「素地」と呼ばれる元の土に「釉薬」と呼ばれるガラス質の薬を塗ってから焼き上げます。
これによって、土色以外の色を表現したり、料理の汁気が器に染み込むのを防いだりしてくれるわけですね。

器の原料となる「土」と「釉薬」、この二つは熱による膨張・収縮率が異なります。
すると焼き上がった陶器を窯から出したときにどうなるか。

窯から出た陶器は外気に晒され急激に温度が下がっていきます。
このとき、熱膨張の反動で素地と釉薬は縮みますが、基本的に釉薬のほうが土よりも大きく縮むのですね。
素地と釉薬は密着しているので、より縮んだ釉薬の表面に亀裂(=貫入)が入る。これが「貫入」というわけです。 

経年変化で貫入が入る場合も

作家によっては、この貫入を狙っていれることによって、器の表現の一つとされています。
一方で、自宅で使用していくうちに貫入が入る場合もあります。

この場合は、温かい料理が盛られることで器が温まり、その後冷めていくことによって、窯から取り出したときと同じ現象が起こるわけです。

また、どんな器でも貫入が入るわけではなく、土や釉薬の種類によっても変わります。
もっと言えば、同じ土、同じ釉薬、同じ窯で焼かれたものでも、窯の中の位置や微妙な温度の違いによっても、貫入が入ったり入らなかったりするのです。

薪窯ではなくガス窯であっても、土や炎という自然のものを人が完璧にコントロールすることはできないんですね。

でも、人がコントロールできないからこそ生まれる表現もあり、それも器の楽しみどころの一つ。
工業製品にはない魅力ではないでしょうか。

N400 リムプレート

一見マットなこちらのプレートもうっすらと貫入が確認できます。(N▶︎400 リムプレート 6寸

貫入は防ぐこともできるんです

一種の表現として楽しまれる貫入。
私も貫入が入ったものが大好きで、自宅の食器棚にも多く並んでいます。

ただ場合によっては、貫入が入っているとマイナス評価(いわゆるB品)とされるケースもあります。
高級レストランで使われるものや、全く同じ質のものが好まれる工業製品の器として扱われる場合ですね。

このような場合には、貫入を入れないようにする防止策が講じられています。
貫入は「素地と釉薬の膨張・収縮率が異なる」ことによって生じると説明しました。

逆に言えば、「素地と釉薬の収縮率を同じにする」ことができれば貫入は生じないわけです。(あくまで理論上です)
現在は技術の進歩によって、ほぼ同じ収縮率の素材を使うことができます。これによって、大手雑貨屋などに並ぶ器は均質性が保たれているわけです。

白い食器

気になる方はお手入れを

貫入とは、「釉薬の表面にできたヒビ割れ模様」のことでした。ということは、やはり貫入が入っていないものよりは料理の汁気等は染みやすくなってしまいます。

こうした経年使用による染みなども含めて、「好きな器との暮らしを楽しむ」とも言えますが、やはり気になってしまう方も一定数はいらっしゃると思います。

そうした方に向けて、お手入れの方法も最後に記述しますね。
(お手入れをしても、陶器の性質上ある程度は経年変化しますのでご了承を)

◇新しい器を使用する前に

新しい器を使用する前、「目止め」という作業をしていただくことで器の経年変化を遅らせることができます。
(磁器の場合は必要ありません。また、作り手によって撥水加工が施されている場合もあるので、詳しくは購入店もしくは作り手にお尋ねくださいませ)

  1. 米のとぎ汁、もしくは小麦粉か片栗粉を水に溶かしたものを用意します。
    (小麦粉か片栗粉をご使用の場合は水1リットルに対し大さじ1〜2杯程度を加え、とぎ汁の代わりとしてください。)
  2. 器が完全に浸る大きさの鍋などに米のとぎ汁と器を入れます。(器が大きくて鍋に入らない場合はよく乾燥した器に下記4のとぎ汁等を流し込んで目止めとしてください。)
  3. よりしっかりと目止めを行いたい場合にはさらに一握り程度のご飯を加えます。
  4. 弱火〜中火で沸騰させます。(必ず常温の水に器を入れてから弱火〜中火でゆっくり加熱してください。沸騰した状態の鍋に器を入れたり強火で急激に加熱すると破損の原因となります。)
  5. しばらく煮沸したら火を止めます。鍋ごと完全に冷めるまで待ってから器を取り出し、洗ってからよく乾かします。(私は火をつけてから12~15分程度で火を止めています)
目止めの様子

◇日常でご使用の前に

ご使用の際にはその都度水にさらして水分を吸収させてから使うと、食品の水分や油分が入り込みにくくなり、汚れを防ぐことができます。

おわりに

当店の器にも貫入が入っているものがあるので今回はその仕組みについてまとめてみました。
「このヒビ模様はなんだろう?」と思っていた方の疑問が少しでも解消されれば喜びの限りです。